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「来い」
「――え?」
「来いって言ってんだよ」
「な、何で…」

 疑問を口にしたら、ギロリと睨まれた。俺は数秒視線を彷徨わせて、大人しく永良の言うことに従う。

「座れ」
「うわっ!?」

 ベッドまで行ったら、今度は腕を掴まれて体制を崩す。持ち前の反射神経でベッドに手を付いて転倒は防ぐことができた。
 はー、と安堵に息を吐くと、横から鼻で笑う声が聞こえた。俺はムッとして横を向く。そして至近距離にある端正な顔に驚いた。はっと息を飲んで身を引く。永良は一瞬眉を顰めた。

「危ないだろー」

 はは、と苦笑して平静を装う。愛想笑いは得意だからバレるわけがないと思ったが、永良はじっと俺を見つめる。居心地の悪さに、はは…、と尻窄みな笑いになった。こ、怖いんだけど永良。流石不良っていうか、眼力ヤバイ。俺は何も言わずベッドの端に腰掛けた。永良が起き上がって俺の横に座る。

「お前、まだあいつと関わってんの?」
「あいつ、って…」

 何となく誰のことかは予想が付く。永良は一度頷いてから溜息を吐いた。

「明だよ」
「あ、ああ…。まあ、関わるっていうか、普通に友達やってるけど」
「今後関わるな」

 ――…一瞬、何を言われたか分からなかった。

「は? はは、どうしたんだよ永良。変な物でも食ったか?」

 永良はチッと舌打ちをする。そして今までにない真剣な顔で俺を見た。

「いいか、あいつだけはやめろ」

 その言葉が頭の中で反復する。
 ――何で。何で永良にそんなこと言われなくちゃいけないんだ。俺は、お前と違ってそんなに強くない。俺の大事な親友で、多分、初恋なんだ。俺は永良の前ということも忘れ、顔を歪めて俯いた。

「んな顔すんなよ」

 困ったような声が降ってきたと思ったら頭に手が乗ってぐしゃぐしゃと撫でられ――いや、この扱い方は撫でるというより掻き混ぜているだけか。ちらりと上目遣いに永良を窺うと、明に向けていたあの笑みで俺を見ていた。かあ、と頬が紅潮する。ばくばくと心臓が動き始めて、苦しくなった。こんなの初めてだ。

「俺が傍にいてやっから」

 何で、そんな顔と優しい声でそんなこと言うんだよ――。俺はそう呟いたが、声にならなかった。その代わりに涙がぽろぽろと零れ落ちる。永良の言葉は孤独感で一杯だった心を満たしてくれた。

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