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 その後も星矢を中心として話が進んだ。誰かが星矢にお菓子を与えれば自分も自分もと皆が与えだし、話しかければ無理矢理入ってくる。少し前までは考えられなかった光景である。男嫌いで、特に役員が嫌いだった星矢だが、今では男嫌いも治ってきており、役員も嫌いではない。
 星矢も変わったが、何より役員たちが変わった。偉そうな態度ばかりとっていた遼が人を気遣うようになり、庶民というだけで星矢を嫌っていた静貴も中身を知って歩み寄ってくるようになり、人を馬鹿にすることが多かった京も、人を喜ばせるように動くようになった。一方的な怒りをぶつけては星矢に呆れられていた風莉も、人に興味を持たず感情をあまり出さなかった風汰も、変わった。
 だからこそ、星矢はこの空間が好きになってきているのだ。

「あの、もういいです…」

 星矢は口を押さえて首を振った。その顔は少し青い。与えられる物を与えられただけ食べて、限界を迎えたのだ。

「お前小食じゃね?」
「いや、普通だよ…」

 京がぼりぼりと煎餅を食べながら訊ねると、星矢は顔を引き攣らせた。京は星矢と同じかそれ以上食べている。

「そうか? まー、デブよりはいいけど、俺がりがりだとやる気になんねえし、ちゃんと食えよ」
「やる気……?」
「おい室川」

 星矢はきょとんとして首を傾げる。なんのことか分かっていない様子だ。星矢以外は京の言葉を理解しているので、皆ぴくりと耳を反応させる。その中で遼が代表として京に注意した。あんまりそういうことを星矢に言うな、という意味を込めて。

「へーい」

 まったく反省の色を見せない返事をし、また煎餅に噛みつく。星矢は京と遼を交互に見遣った。

「ええと……?」
「お前は気にしなくていい、っつーか、するな」
「はあ」

 一体何のことかわからないが、とりあえず星矢は頷いた。

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