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「若」
「あ?」
腕が外れ、俺は呆然としたまま振り返る。眼鏡をかけたスーツの男が眼鏡を光らせこっちを細い目で睨んでいる。
っていうか。若って。この男のことだよな……? そんな呼ばれ方されてるやつ、ほんとにいることもはじめて知ったし、そういう呼ばれ方をされてるやつで――しかも、この顔とガタイ。まさか、堅気じゃないのか。
今までよく普通に接してきたな、俺。いや今はそんなことを考えている場合ではない。こいつがヤクザとかそういうものだとしたら俺……殺される!
「そろそろお時間が」
「まぁ待てや、ちょっとくらいいいだろうが」
「はあ」
はあじゃないよ! お前そこはもうちょっと頑張ってくれ!
「なんだ、帰っていいのに――……あ」
「兄さん、なにやってるんだよ」
まだ人が現れるのかよと絶望していたら、聞き覚えのある声だった。しかも、さっき聞いたばかりの――。眼鏡の男の横には、先程までフードを被っていた男がにこやかに笑って立っていた。眼鏡もかけていなかったから雰囲気ががらりと変わっている。しかし声はあの男だ。そして長い前髪の隙間からこっちを真っ直ぐ見てくる視線は覚えがあった。ぞくりとする、これは――。
「やあどうも。こうして会うのは初めてだね、近藤くん」
「え…」
「知らないかあ、大学で何回も会っているんだけどね」
大学で感じた視線は、こいつのものだったのか…?
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