16

 しゃがんで封筒をかき集める。そしてぐしゃぐしゃと握り潰し、鍵を取り出した。恐る恐る鍵穴に挿す。
 ガチャ、と鍵の開く音がした。安心して扉を開ける――。

「あ、おかえり」
「ひっ!?」

 誰もいないはずの空間から、何故か声が聞こえてきた。鞄がどさりと床に落ちた。
 暗闇から出てきたのは――。

「さ、三条くん……」

 三条彼方。なんでこいつがここに……!?

「やだな、彼方って呼んでくれよ」

 にこやかな顔で意味不明なことを言いながら近づいてくる三条が恐ろしくて仕方ない。

「ね、亮太」

 人は本当に恐怖を感じると声が出ないと聞くが、あれは真実だったらしい。がくがくと体が震え、立っていられなくて座り込む。

「ど、どうして俺の名前…」
「亮太は恥ずかしがり屋だから偽名なんて使っちゃったんだよね?」
「え……?」
「俺の気を引きたいからって、他の男に構ったり連絡してこなかったり、そんなことしちゃだめだよ」

 なんで知ってる。なんで俺の家に。なんでなんでと疑問がどんどん浮かんできて消える。考えられない。今は目の前の男に対する恐怖でいっぱいだ。

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