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「警察に届けた方が――」
「そうですね……」

 答えつつ、それはできないと心の中で否定する。というのも、俺が今住んでいるこの家は実家で、父親は単身赴任で県外に行き、母親もそれに付いていっているのだ。俺ももう大学生。それも成人しているので、一人で十分だとお袋を追い出した。その方が好き勝手できるからな。
 空き巣の被害に遭ったなんて警察に言って親に連絡されたら、帰ってくるに違いない。これはまずい。悔しいが、泣き寝入りをするしかなさそうだ。くそが。

「あ、じゃあありがとうございました」

 頭を下げ、フードの中を覗き込むようにして上目遣いをすると、眼鏡の奥の目と合う。見たことはない……と思う。しかしなんだかどこかで会ったことがあるようにも思える。そんなことは度々あるので、俺は疑問を頭の隅に追いやった。

「はい、じゃあ、僕はこれで」

 にこり、と笑われて俺は笑い返す。……なんだか一瞬にして奴の笑みが気味悪く思えて、俺はさっさと背中を向け、家に入った。媚びるような視線だった。家の場所を知られているので勿論取り巻きに加えるつもりはない。今後関わり合いたくない。
 よくよく考えると、関わり合いたくないとは言え、よくもまああっさりと家に入ったものだ。もしかしたら犯人が潜んでいるのかもしれないのに。でも俺は普段通りに玄関で靴を脱ぎ、そしてリビングに向かい。目を丸くした。

「……ええ?」

 いつも通りだ。いつも通りすぎる。朝、適当に食べた飯の皿。脱ぎっぱなしの服まで位置が変わっていない。
 俺ははっとして、手紙を顔の前に遣った。ごくりと息を飲んで、封を切る。開いた瞬間、ぞっとして俺は手を放した。

『どうして俺がいるのに、ほかの男に媚びを売るんだ? 嫉妬させたいんだろうけど、そろそろ我慢の限界だ』

 ――誰だ、こいつは。


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