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「明日、試験の後でいいか?」
「必修のやつ? いいよ」

 じゃあデカプリンは明日ということで。俺は帰って用意しなければならない。

「じゃーね」

 平松がひらひらと手を振って去っていく。さて、と思ったところで背筋がぞくりとする。振り向くと、廊下の奥からこっちをじっと見ている影があった。息を飲む。黒髪の中からじっとこっちを睨んでいる――冷や汗が流れた。
 数秒だったか、数分だったか……こっちを睨んでいた影は、すっと闇に消えていった。蛇に睨まれた蛙とは、こんな気分なのだろうか。体が漸く意思を取り戻した。はっと息を吐く。息を止めていたらしかった。はあ、と荒い息が口から吐かれる。
 ……誰だ? なんで、俺のこと……。俺の美しさに嫉妬しているやつか?

「……寒い」

 俺はぼそりと呟く。外は暑くて蝉も鳴いているのに、ぞくぞくと寒気が俺を襲った。





「……? なんか顔色悪いけど、どうかしたか」
「あ、いえ……別に…」

 俺は今日約束していた男、高宮誠二に会っていた。今日も高級感が漂っている。俺はちらりと高宮を見上げる。先程気持ち悪いことがあったからか、なんだか高宮といると安心する。つーか、男前だな、まじで。
 俺が美人と称されるなら、高宮は精悍だろう。かなりモテるに違いない。

「…まあ、いいが。ほら、行くぞ」

 然り気無く俺の手を取り、歩き出す。俺はへらりと笑みを張り付けて頷いた。

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