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「ま、仕方ないから貸してやるよ」

 俺は試験に出る範囲をまとめたノートを渡す。すると、平松はノートを受け取り、両手を合わせて拝んだ。

「ありがたや…なんか今度奢るよ」
「んじゃ高級チョコで」
「さーて勉強勉強!」

 おい、こいつ、無視しやがった。……まあいい。どうせ、奢ってくれる奴はたくさんいるんだ。わざわざ貧乏学生から金を巻き上げるなんてこと、優しい俺はしないでやるよ。
 試験開始まであと十分。俺は欠伸を噛み締めながら、試験が始まるのを待った。











「はい。ノートありがと」
「ああ」

 簡単すぎてすぐに終わってしまった。だから、退室許可が出てから俺はすぐに講義室を出た。つまり今は試験開始から一時間経ったところだ。すると、俺のすぐ後で出てきた平松が俺にノートを差し出してきた。そういえば貸していた。一時間前のことを思い出し、ノートを受け取る。

「近藤くんこの後試験ある?」
「や、今日はない」
「そう。私も早く終わっちゃったしさ、この後でもいいけど」
「何が?」

 首を傾げると、平松は一瞬で呆れた表情になる。なんでそんな顔をされなければならないのかと俺もむっとする。

「奢るって言ったじゃん」
「ああ。高級チョコ」
「学食のデカプリンで許して…」

 学食のデカプリン。安い、旨い、デカい、と有名なプリンだ。勿論俺も食べたことがある。あれは旨い。俺はにやりと笑うと、頷いた。

「許してやろう」
「はいはい…で、今日で良い?」
「ああ――いや、今日は無理」
「あ、そう。じゃあまた今度」

 あっさりと引き下がる平松。早めに奢ってもらわないと、ないことにされそうだ。


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