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「…それって僕のせい、だよね。ごめん…」
「――いいよ。その程度の友情ってわけだし」

 広樹くんは苦笑すると、僕を見つめる。その顔は切なげで、僕の胸はぎゅっと締め付けられる。

「俺ってひどい人間なんだ。……陽一、俺のこと嫌いになった、よね…?」
「嫌いになんかなってない!」

 僕は考える間もなく叫んでいた。広樹くんが驚きで目を見開く。あれだけ夢のことを気にしていたというのに、実際に聞かされても、僕の気持ちに変化はなかった。広樹くんの態度が夢のように変わっていないからかもしれない。

「僕、広樹くんのこと、ひどい人間だとは思わない。あ、あの、…嫌いじゃなくて、す、好き、だな」
「陽一……」

 ぐにゃっと広樹くんの顔が歪んだかと思うと、瞳から何かが零れ落ちる。それが涙だと分かり、僕はぎょっとした。

「な、泣かないで」
「ありがとう、陽一」
「……こっちこそ、話してくれてありがとう」

 僕は鞄の中からハンカチを取り出す。暑いから汗を拭く用に入れたものだ。広樹くんは僕にお礼を言って、それを受け取った――と思ったら、掴まれたのは僕の手首だった。

「えっ」

 ぐいっと引っ張られ、ちゅ、と額に何かが当たる。すぐに離れていった広樹くんの顔。少し赤くなっている。僕の周りに纏わりつくはちみつみたいに甘い雰囲気。僕は今のが広樹くんの唇だと気づき、両手で顔を覆った。
 こうして僕には、はちみつみたいに甘い恋人ができたのだ。















fin.

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