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 店を出る。僕たちの間に会話はなく、暗い空気だけが流れていた。広樹くんと出会った合コンの時は、二人は特別仲が悪いようには見えなかった。だけど今日は…。……何があったんだろう。

「……広樹くん」

 いつまでも店の前に立っているわけにはいかない。僕は恐る恐る広樹くんに声をかけた。広樹くんは何を考えているのか、じっと前を見据えている。

「広樹くん」

 先ほどより声を出して呼んでみる。はっとした広樹くんは慌てた様子で僕に顔を向けた。

「ごっ、ごめん…俺、ぼーっとしてて」

 僕はほっと息を吐く。いつもの広樹くんだ。

「…あの、その…高木くんと、仲が悪いの?」
「…まあ、ちょっとね」

 広樹くんは言いにくそうにしながら、口にした。それ以上訊くことができなくて、ああ、そうなんだと無難な返しをする。

「…陽一、本当に何もされてない?」
「うん。大丈夫」
「…ならいいんだ。ごめん、空気悪くしちゃって。……本も買わずに出てきちゃったし」
「本はまた今度買いに行くからいいよ」

 しゅんとした広樹くんにどきっとする。それから心臓の鼓動が早くなっていくのを感じ、僕は視線をうろうろと動かした。

「ありがとう、陽一は優しいね」

 甘い声が僕の体に入り込んでくる。かあっと熱くなって、僕は首を振るので精一杯だった。

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