25

「……こうすれば人が寄ってこないと思って」

 僕は、あっと声を出す。帽子にマスク、そしてサングラス。芸能人の変装みたいだ。もしかして、僕のために? っていうのは、自意識過剰だろうか。

「でも、暑いでしょ? 外した方が…」
「うん。マスクはさすがに外す」

 くぐもった笑いの後、広樹くんはマスクを外した。ふう、と息を吐くと、口角を上げた。目は見えないけど、柔らかい笑みを浮かべているんだろうなと思った。

「よし、行こうか」
「うん」

 頷いて歩き出す。――僕はほっとしていた。広樹くんは普通だ。今まで通り、優しい。クラスメイトが言っていたことは嘘だと信じたい。

「あ、本屋に寄っていい?」
「うん。僕も買いたい本があるんだ」

 昨日発売された本。広樹くんが言わなければ僕が提案していた。

「ここの近くにあるっけ……ああ、あった」

 本屋を指差し、そっちに足を向ける。僕はうきうきと心を踊らせた。


[ prev / next ]



[back]