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「一応、友達……になったんだ。この前」
「へえ、友達ねえ」

 クラスメイトは馬鹿にしたように笑うと、僕をじろりと睨んだ。

「気をつけたほうがいいぞ、あいつ性格悪いから」
「なっ……なんでそんなこと! 君たちは友達なんでしょ?」

 ぎょっとして言うと、鼻で笑われる。クラスメイトは次いでにっこりと笑みを浮かべると、口を開く。

「あいつと友達? 冗談じゃないね」

 僕は唖然とする。話は終わりだというように、クラスメイトは僕の席から離れていった。――性格が悪い? 僕の頭にはその言葉がこびりついた。広樹くんと友達なんて冗談じゃないという言葉も気になる。夢の中の広樹くんが再び僕の思考を邪魔した。

「違う……違う」

 僕は自分に言い聞かせるように口に出すと、思考を振り切って読書を再開した。








 来る土曜日。待ちまわせは以前と同じだ。この前広樹くんが先に来て大変なことになっていたので、僕はかなり早めに家を出て待ち合わせ場所に向かった。流石にいないだろうと思って確認すると、やっぱり広樹くんはいなかった。女性の集団もいない。僕は安心して時計台の下に足を向けた。
 ふうと息を吐いて帽子のつばを掴む。少し上にあげて汗を拭いた。もうすぐ夏が来ようとしている。今年の梅雨明けはだいぶ早かったのだ。夏休み。――毎年宿題を終わらせ、家でのんびりしていた。けど今年はどうなるかわからないな。……広樹くんとどうなるかによって変わる気がする。
 そういえば僕って広樹くんのことばかり考えているなとぼんやり思っていた時だった。

「あっ、陽一!」

 広樹くんの声が聞こえ、僕は声が聞こえてきた方に顔を向ける。女性がそばにいないか不安になりながら。

「……広樹くん?」

 僕の声は訝しげなものとなって口から発された。広樹くんと思わしき人物は、帽子を深々と被り、サングラス、マスクをつけていたのだ。

「俺だよ、陽一」

 確かに声は広樹くんだ。……だけど、その格好は一体。

「ま、マスク暑くない……?」
「暑い」

 即答され、じゃあなんでマスクを? と疑問に思う。風邪なら連絡が来るだろうし、体調が悪そうには見えない。もちろん花粉の時季でもない。


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