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 それから、数日間広樹くんから連絡が来ることはなかった。僕は、日に日に広樹くんのあの笑みを思い出すことができなくなって、広樹くんの言葉も段々と信用できなくなった。夢の中の広樹くんは、本当の広樹くんなのではないだろうか。
 僕も広樹くんに連絡していないし、広樹くんも僕に何も連絡してこない。学校も違うので、僕と広樹くんの接点は何もない。

「はぁ……」
「七瀬くん、どうしたの?」
「……あ、いや」

 僕の数少ない友人である田中くんは、顔の半分を髪で覆われており、髪の隙間から僕をじっと見た。

「悩みごとでも?」
「悩みごと……といえば、そうなん、だけど」
「なに? 僕に言ってみてよ。相談に乗るよ」
「…ありがとう」

 田中くんの口がにいっと弧を書く。この笑みが最初はちょっと不気味だったけど、慣れてしまえばなんだか愛嬌があるような、ないような…。
 ……田中くんの言葉はありがたいけど。どう言えばいいんだろう。

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