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こいつらまで来るなんて聞いてないんだけど。というか、そもそもきた理由もよく分かんねえし。じとりと睨めつけると、連に顎を掴まれてぐっと持ち上げられた。顔の方向を無理矢理連に向けられた所為で首が変な音を立てる。

「何すんだ、馬鹿」
「あ? 馬鹿はお前だ」

 くそ、頭良いからって馬鹿にしやがって。…っていうか、顔と顔の距離が近い気がすんだけど。もうちょっと顔離さないと事故るぞ。マウストゥーマウス的な意味で。

「お前、近いって」
「照れんな照れんな」
「照れてねえよ」

 ニヤニヤと笑う連を呆れながら見る。こいつのこういう人を揶揄う発言は多いので、もう気にしていない。イチイチ反応するのは癪だしな。こういう時は飽きるまで好きにさせておくのが一番だ。
 男同士で顔近づけ合っている光景を見せてしまってクラスメイトには悪いことをした……あ? 何で顔赤いやついんの?
 不思議に思っていると俺と連の間ににゅっと手が入って、強制的に離された。そのまま後ろに引き寄せられて、ぽっすりと誰かに包まれた。

「おい、嫌がってんだろ」
「……あぁ?」

 た、巽――! 助かった! でも何ナチュラルに抱きしめてんだよ。放せ!
 連も何か言ってくれと言おうと思い、連の方を向くと――表情を見て凍りつく。久しぶりに見たキレ顔だ。黙って様子を見ていた峻と要も息を飲んでいる。
 何でキレてんだ、連は。そんなに俺を揶揄うのを中断されたことが気に入らないのか?

「テメェ…誰だよ」
「大石」
「名前なんざ興味ねぇ。万里の何だ」

 それ訊いてどうすんだよ…。真面目に答えなくていいぞ、巽。しかし、巽は今までにないくらい真剣な顔で連を見据えていた。その男らしさに一瞬どきりとする。

「今は友達」

 今はって何だ今は。これからも友達だろうが。ん? 俺らって友達なのか、一応。まあ友達っつーのはいつの間にかできてるもんだからな。

「今は…ねぇ」

 何だか意味深に呟く連の後ろで峻と要も表情を顰める。俺って当事者な筈なのに全く状況が掴めない。それは更木も同じようで、困惑した顔で俺を見ている。見つめ返してふるふると首を振ると、苦笑された。
 因みに言わなくても分かっているかもしれないが、梅原はこの空気の中寝ている。その図太い神経俺にくれよ。
 っていうか、俺ぁいつまで抱き締められていればいいんだよ……。

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