▼ 17
「あ、あの……やっぱり払うよ」
「いいよ、これくらい」
広樹くんは財布を仕舞いながら苦笑する。僕はでも、と口にするけど、広樹くんは折れなかった。
初めて友達に奢られてしまった。僕は広樹くんの彼女――というか、女の人でもなんでもないんだから、奢ってもらわなくてもいいのに。
「……ありがとう」
「じゃ、お礼してもらおうかな?」
「えっ」
お、お礼? 僕は目を瞬かせて広樹くんを見上げる。広樹くんはずいっと僕に顔を近づけ、囁いた。
「キス、したいな」
「……は?」
きすって、何? ……え、キス? あの、恋人同士がする、キス?
頭の中がぐちゃぐちゃになって、僕は、え、え、と動揺した。
「なっ、なんで」
「そりゃ、陽一が好きだから。俺、好きな子にしかこんなこと言わないよ」
「ま、待って。僕、男……」
「知ってる。だけど、好きなんだよ」
そう言う広樹くんの顔は凄く真剣なものだった。僕はごくりと唾を飲み込み、後退る。広樹くんは笑った。
「返事はまだいらないから。キスも、陽一が嫌ならしない。でも俺本気だから、そこは知っていて」
甘ったるいその声と顔に、僕は眩暈がした。
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