17

「あ、あの……やっぱり払うよ」
「いいよ、これくらい」

 広樹くんは財布を仕舞いながら苦笑する。僕はでも、と口にするけど、広樹くんは折れなかった。
 初めて友達に奢られてしまった。僕は広樹くんの彼女――というか、女の人でもなんでもないんだから、奢ってもらわなくてもいいのに。

「……ありがとう」
「じゃ、お礼してもらおうかな?」
「えっ」

 お、お礼? 僕は目を瞬かせて広樹くんを見上げる。広樹くんはずいっと僕に顔を近づけ、囁いた。

「キス、したいな」
「……は?」

 きすって、何? ……え、キス? あの、恋人同士がする、キス?
 頭の中がぐちゃぐちゃになって、僕は、え、え、と動揺した。

「なっ、なんで」
「そりゃ、陽一が好きだから。俺、好きな子にしかこんなこと言わないよ」
「ま、待って。僕、男……」
「知ってる。だけど、好きなんだよ」

 そう言う広樹くんの顔は凄く真剣なものだった。僕はごくりと唾を飲み込み、後退る。広樹くんは笑った。

「返事はまだいらないから。キスも、陽一が嫌ならしない。でも俺本気だから、そこは知っていて」

 甘ったるいその声と顔に、僕は眩暈がした。

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