13

 来る土曜日。精一杯のおしゃれをした僕は、待ち合わせ場所に向かっていた。駅前広場の時計台だ。遅刻しないように早めに家を出て早めに到着した――んだけど。

「な、なんだあれ…」

 僕の目に入るのは、きゃあきゃあと黄色い声を上げる女の人たち。…なんか、芸能人でもいるのかな? 困ったな…そこに行きたいけど、近寄れない。
 ちなみに誰が来ているんだろう。好奇心に駆られた僕は、こっそり顔を覗かせて中心の人物を見る。そしてぎょっと目を見開いた。

「ひ、広樹くん…!?」

 僕はぴしりと固まった。広樹くんは困った顔で周りを見ていて、僕に気づいていない。顔を引っ込ませて、携帯電話を取り出す。周囲の目を集めるだろうとは思っていたけど、ここまでとは、予想外だ。とにかくここにいちゃまずい。離れて連絡をとろう。
 踵を返し、そこから離れようとした時――。

「あっ! 陽一!」

 な、なんでばれたんだ!?
 僕はびくりとして、恐る恐る振り返る。なんだか慌てた様子の広樹くんは、女の人たちを押しのけて僕に駆け寄る。女の人たちからぐさぐさと突き刺さる視線に居心地が悪かった。

「い、今帰ろうとしてた!?」
「えっ!? いや、ちがっ」

 誤解だとぶんぶん首を振る。途端に広樹くんはほっとした顔になって、僕に笑いかけてくる。後ろの太陽のせいか、きらきらと輝いて見える笑顔。そして、敵意の含まれた視線。

「良かった。ごめん、来てばっかで悪いんだけど、ここから離れよう」

 後ろの女のひとをちらりと一瞥して、僕の背中を押す。僕は疲れたような顔を見上げて、イケメンも大変なんだ、と思いながら頷いた。

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