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「七瀬、お前、あいつと仲良いの」
「へっ……?」

 翌日。自分の席で大人しく本を読んでいた僕のもとにやってきたのは、僕を合コンに誘ったクラスメイトだった。あいつ――というのは、恐らく、いや、絶対にイケメンこと山邊広樹のことだろう。
 仲が良い、とは違う。けど、なんて言ったらいいんだろう。広樹くんが僕と仲良くなりたいと言ってきたなんて言っても、信じてもらえない。

「おい、聞いてる?」
「あっ」

 少し苛立ったように訊ねられ、僕は慌てて首を振る。仲が良いわけではない。だから首を振ったとしても、嘘ではないはずだ。

「……ふーん」

 じろりと睨まれ、僕は恐々と目の前のクラスメイトを見上げた。信じていなさそうな顔だ。

「そうだよな。だって七瀬だし」

 ふん、と鼻で笑われ、ぐさりと言葉が胸に突き刺さった。……だって、七瀬だしって。なんて失礼なやつだろうか。でも言い返せない僕も僕だ。僕はじっと机を見つめた。そうしているうちに、クラスメイトは僕の席から離れていった。僕は息を吐いて、再び本を開く。
 一応言っておくが、僕に友達がいないわけではない。このクラスにいないというだけだ。クラス替えで少ない友人と離れてしまったのだ。新しく作ろうとは思わない。少し過ごしてみて、どの人も僕には合わないと思ったから。無理して付き合いたくはない。休み時間に会いに行けばいいだけ。……だけど、ちょっとした不安がある。僕の友達が、僕よりクラスの人と仲良くなって、そっちを優先してしまうことだ。そうなってしまったら、僕は……どうすればいいんだろう。

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