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「だからさ、連絡先教えて?」

 にっこり笑いかけられ、僕は逆らえず携帯電話を取り出す。イケメンは、あれ、と目を瞬かせた。

「陽一、ガラケーなんだ」
「あ、まあ……」

 機械があまり得意ではないし、そんなに使う機会もないのでスマホに変えようとは思わない。そう伝えれば、イケメンは再び笑顔を浮かべた。

「そうなんだ。じゃあ俺とはいっぱいメールしようよ」
「う…うん」

 僕とイケメンは互いに携帯電話を渡し、アドレスと電話番号を入力する。同世代のスマホを持ったのは初めてで、手が震えたし、何か変なボタンを押さないか、落とさないかなどの不安でドキドキしながら操作した。だから入力するまでかなり時間がかかってしまった。だけど、イケメンはそんな僕のことをにこにこしながら待ってくれて――僕は、彼のことを誤解していたのでは、と思った。
 戻ってきた携帯電話。一件連絡先が増えただけでずしりと重くなったのは、彼がイケメンだからか…。もともと僕に友達が少ないからか…。

「あの…ありがとう」
「ん? どういたしまして――っていうか、俺のほうこそ、ありがとう」

 彼は変わっているな、と思う。僕は思わず、へら、とだらしない笑みを浮かべてしまった。その瞬間、イケメンの顔がぼっと赤くなる。先ほども見た赤い顔。どうして彼がそんな反応をするのか、最初はもしかしてそっちの気があるのではと疑ったが、ただ照れ屋なだけかもしれない。というか、そう思っておこう。

「改めて、よろしくね、陽一。俺のことは広樹って呼んで」
「う、うん。ええと、ひろ…きくん」
「うん」

 危ないから家まで送ると言われ、やっぱりこの人は変だ、と思い直したのはこの会話のすぐ後のことだった。

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