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「なにしてたのぉ?」

 結局、僕の説得によりイケメンは僕と一緒にトイレを出た。渋々だけど、まあ良かった。でも案の定、女の子からブーイングが飛んでくる。イケメンには甘えた感じで。そして僕をぎろりと睨みながら。

「ごめん、ちょっと話し込んでて」
「えっ、誰か知り合いがいたとか?」
「ううん、陽一と」

 また空気になろうと飲み物を口に含んでいたら、自分の名前が耳に入り危うく噴き出しそうになった。向かいの子の白い目が僕に向けられる。
 というか、やめてほしい。どうして僕の名前を出すんだ?

「陽一……?」

 一方の女の子はイケメンから出た名前が誰か分からず頭にクエスチョンマークを浮かべている。

「七瀬くんだよ。七瀬陽一くん」
「七瀬……?」

 苗字を聞き更に分からないと首を傾ける女の子たち。

「もういいじゃん? 山邊が誰と話そうと」

 僕を誘ったクラスメイトが面白くなさそうに口にした。クラスメイトは僕の名前を知っているので、イケメンが僕と話していたことが分かっているだろう。正直この時ばかりはクラスメイトに感謝した。僕だと言うことをバラさず、違う話に持っていこうとしてくれたのだ。もっとも、百パーセント僕のためではないけど。
 女の子たちも、それ以上突っ込んで訊いてくることはなかった。でも、問題は女の子たちじゃなかったのだ。

「そこにいる七瀬陽一くんだよ」

 僕を指差し、にこりと笑うイケメンは驚くほど空気が読めなかった。

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