20

 翌日の朝。登校した俺の前には頭を下げる本城先輩がいた。

「弟が迷惑をかけて悪かった」
「ちょっ、頭を上げてください」

 俺は慌てて頭を上げるように言った。ここは正門で、当然人が多い。そんな中で頭を下げている人がいれば目立つのは当たり前だ。しかもそれが本城先輩のような人であれば更に注目を浴びる。
 ゆっくりと顔を上げると、気まずそうに首の裏を掻いた。

「本当はあいつにも謝らせたかったんだが…」
「良いですよ、別に。それよりずっと騙してすみませんでした」

 苦笑した後謝ると、本城先輩は肩を竦めた。

「すっかり騙されたな」
「…すみません」
「謝んなって。俺はお前に対して怒ってるわけじゃねえんだし」

 ほっとして息を吐く。望みはないが、好きな人に嫌われていないというだけで喜ばしいことだ。
 俺たちはどちらからともなく歩き始める。

「あの…なんで小竹はこんなことをしたんでしょうか」
「まあ、色々口出す俺が疎ましいからだろうな。嫌いと言った方が適切か。だから男の恋人を作ったっつーことで、引かせようとでも思ったのか? そこらへんは良く分からねーが」
「…引きました?」

 ちょっと不安になって訊ねる。

「いや? どっちかっていうと、どういう奴か気になったな。性格とか、優の顔で選んでないかとか」
「ああ…」

 そういえば最初はそういうことを言われたな。思い出して懐かしんでいると、本城先輩は声のトーンを下げた。

「お前も薄々勘付いているとは思うが、俺と優は血が繋がってない兄弟で…去年俺の親父が再婚した相手の連れ子が優だった。でも優は親父のことも俺のことも認めていないみたいでな、苗字も母親の旧姓のまま。で、家にも滅多に帰らねえ」
「そうだったんですか……」

 まったく似ていないのも、苗字が違うのもそのせいなのか。何で小竹は認めていないんだろう? 本城先輩はいい人だし、自慢の兄貴になれるのでは……いや、まあ、見た目完全に不良だけど。眉を下げると、俺の頭に手が乗って、ぽんぽんと優しく叩かれた。

「そんな顔すんなよ。俺は優と仲良くなりてーからな。これからも口出していく。言っただろ、生意気なところが可愛いって」


 「俺兄弟いなかったから弟できて嬉しいんだよな」そう言って笑う先輩に笑い返す。こんなに想ってもらって、小竹が羨ましい――そんな思いを抑えて。

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