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「噂で聞いたんだけどさ、金持ちで凄い強い奴がいるんだろ?」
「そりゃ連のことだな」
「お、友達?」
「おう。…って何だよお前」

 大石が無表情でじっとこっちを見つめてきて、俺は顔を顰めた。

「名前」
「はあ?」

 単語で喋ってねえで、普通に話せよ分かりにくいな。名前がどうしたんだ一体。

「そいつのこと、名前で呼んでんのか」

 今度は文章になっていたが、意味が分からなかった。名前で呼んでたら何だって言うんだよ。

「あー…えっと、大石は名前で呼んで欲しいんじゃない?」

 黙ったままの大石と見つめ合っていれば、更木が苦笑した。名前を呼んで欲しいって、まあそれくらい別にいいけどよ。…ん? こいつの名前って何だったっけ。名前を忘れたことを悟られたくなくて曖昧に笑うと、俺の心を読んだように大石が溜息を吐いた。

「巽」
「あ、お、おー。巽な、知ってた知ってた」
「……わ、分かりやす」

 更木までもが呆れた表情になっている。…そんなに分かりやすいのか、俺。そういや賭けも負けてばかり――って、やべえ! すっかり忘れてたが、今日連が来るとか言ってたよな…! い、いつ来るんだ!? 取り敢えず教室には来んなよ。絶対ややこしくなるだろ、大石がいたら!
 急に真っ青になった俺を不思議そうに見る更木と相変わらず無表情な大石。

「どうした?」
「…昨日、連がこっちに来るっつってたの思い出した」
「連って…え、さっき言ってた連!?」

 更木の声に、教室が静まり返った。いや、最初から静かだったけどな。原因は俺と大石がいることにあるだろう。そんな中、誰一人としてこっちに顔を向けていないが、先程挙がった名前の奴が来ると聞いて、奴らの顔が真っ青になったということは分かる。因みにこの空気の中、一人だけ寝ているのは梅原だ。会って間もないが、流石としか言いようがない。

「何で来るんだ?」

 俺や大石に普通に接する更木でも、連が怖いのか顔を引き攣らせている。

「知らねえ、いきなりキレて来るっつったからな」
「キレたぁ? 怒らせるようなことでも言ったのか」
「いや、別に言ってねえよ。あいつら時々意味分かんねえことすっからなぁ」

 友達ができたっつったらキレたんだったな確か。俺に友達ができることの何が気に入らなかったのか。
 疑問に思いながら横をチラリと見ると、無表情だった大石が眉を顰めて口元に手を当て、何かを考えていた。

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