17

 俺はおかしい。毎日昼食を本城先輩と摂るようになって。なんだか、ドキドキするようになって。

「おい、どうした?」
「――えっ」

 はっとして顔を上げると、本城先輩が眉を顰めていた。不機嫌そうに見えるが、俺を心配しているのだと、今では分かる。

「ええっと…別に、なんとも」

 先輩といるとドキドキすると考えてましたなんて言えるわけがない。俺はへらりと笑みを浮かべて答えるが、納得がいっていない顔をしていた。
 誤魔化すように味噌汁を啜ると、先輩は溜息を吐いた。

「なぁ……最近、その、どうだ?」
「最近?」
「あいつと……」

 言いづらそうにぼそぼそと訊ねてきたので、あぁ、と俺はテンションを下げる。やっぱり本城先輩は、小竹が好きなんだ。そしてそれにショックを受ける俺は――。

「変わったことは特に…」
「そうか」

 くしゃりと笑う。俺は目を見開いて、その笑みに釘付けになった。

「これまで過ごしてきて、お前がいい奴だってとっくに分かってた。でも、こうして一緒にいて、俺は……」

 そこで、はっと目を見開いた先輩は話の途中だというのに口を閉じる。続く言葉は一体なんだったんだと考えるより先に、再び本城先輩は口を開いた。

「お前のこと、認める」

 眉を下げ、哀しそうに笑うもんだから。俺は胸を締め付けられる想いで本城先輩を見つめた。
 俺は小竹が好きじゃない。好きなのは……本城先輩だ。そして本城先輩が好きなのは、小竹だ。俺は嘘吐き続けて、本城先輩にこんな顔をさせて。最低だ。

「じゃあな」
「まっ」

 先輩が立ち上がる。俺は制服の袖を掴んで引き留めた。目を丸くする先輩に、早口で告げた。

「待ってください。俺――俺は、本当は小竹と付き合ってないんです」
「……は?」

 小竹、ごめん。俺は心の中で謝罪した。

 

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