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 なんと奴は昼休みにも俺を訪ねてきた。その瞬間教室は凍り付き、俺も身を固くしながら奴の動向を窺った。

「――来い」

 たったそれだけ。しかしその言葉を向けられているのは間違いなく俺であり、拒否権がないのも確実であった。俺は皆に見守られる――というより、同情の視線を受けながら立ち上がり、戦場へ赴く思いで本城の所へ向かった。ぎらりと獣のような鋭い目で俺を追い、俺が傍まで来ると背を向けた。そしてそのまま歩き始めるので、俺はずしりと重い足を動かし、後を追った。







 辿り着いたのは食堂だった。呼び出された時点で昼食は食べられないと思ったが、もしかして俺と一緒に食事を摂るつもりなんだろうか。ここに連れてきた意図が分からず棒立ちしていると、本城はさっさと食券を買って日替わり定食を注文していた。……もしかしたら、ただ自分が食べたかっただけかもしれない。なら、俺も頼んでいいかが分からない。どうするべきか悩む俺に、本城は急かしてきた。「早く買えよ」
 許可を受けた俺は急いで買おうとして――財布がないことに気付く。というかスマホすらもない。完全に手ぶらだ。俺は無言で本城を見た。本城は俺の両手に何も持っていないことに気がつくと、ふいっと視線を外しておばちゃんから定食を受け取った。当たり前だが奢ってくれはしなかった。
 美味しそうな定食を持って歩く本城に続き、空いている席に腰を下ろす。ふうと一息ついた俺に向かって、本城が口を開いた。

「お前、あいつのこと好きなの」



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