10

「――それは、災難だったなぁ」
「他人事みたいに言うな」
「いや、他人事ですし」

 まったくその通りだ。俺はぐぐうと唸ってクラスメイトを睨む。小竹のことを教えてくれたクラスメイトである。名を八嶋という。本城の呼び出しから戻ってきた俺を迎えたのは、この八嶋のニヤニヤとした憎たらしい顔と無傷で帰って来たことによるクラスメイトの驚きの顔だった。とりあえず八嶋にこれまでの経緯を説明すると、返って来たのは冒頭の言葉。

「本城…本城……ええと、本城も人気なの?」
「本城正孝ね。そりゃ有名だろ。あんだけ目立つ見た目しといて知られないわけない」
「……あの、知らなかった人がここに一名いるんですが」
「お前は他人に興味なさすぎ」

 ずばりと言われ、確かにと黙る。八嶋は、でも、と言って顎に手を遣る。

「本城先輩が小竹優に付き纏ってる、っていうのは知らない――というか、見たことないけどなあ」
「そうは言っても、俺はついさっき、本城に俺と小竹の交際を認めないと言われたばっかりだぞ」
「んんー…よく分からんなあ。本城先輩は小竹優が好きだって?」

 肯定しようとして、好きだとは言っていなかったなと記憶を掘り返す。いやでも、言ったも同然だ。あの様子は、小竹に好意を抱いていて、俺を憎んでいる感じだった。
 俺は頷く。ますます八嶋は首を傾げて、お手上げだと言わんばかりに肩を竦めた。

「小竹も本城先輩も謎だからな。……ま、頑張れよ」
「他人事みたいに言いやがってえええ…」
「いやだから他人事なんだってば」
「八嶋、俺とかわらない?」
「お、そろそろ先生来るな」

 俺の提案を華麗に無視して自分の席へと戻っていく八嶋。なんて薄情な奴なんだあいつ。

[ prev / next ]



[back]