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『あー、もう接触してきたのか』
事情を説明すると、あっさりとした返事が返ってきた。少しは動揺を見せると思っていた俺はスマホを耳に当てたまま呆然とする。
「……あいつは一体誰なんだ?」
『本城正孝』
「…聞いたことない」
記憶から名前を掘り起こそうとしたが、ピンと来ない。ということは聞いたことがないということだろう。
『まー、そうだと思ったよ。僕のことも知らなかったし』
馬鹿にしたような言い方にむっとするが、それよりも相手の情報が欲しいため、黙って耳を傾けた。
『不良だよ、不良』
「見たら分かる」
『あ、そう?』
この場にいたら、俺は小竹を殴っていただろう。行き場のない怒りを、壁を蹴って消そうとしたが、発散するどころかむしろダメージを負っただけだった。さっき不良が手で壁を殴っていたが、あれは痛かったんではないだろうか。……って、俺は何を心配してるんだ。
「付き纏っている奴ってのは」
『あいつで合ってるよ』
「…とんでもないのに付き纏われてるな」
電話の向こうで、小竹が溜息を吐いた。こいつも苦労しているんだな。女の子じゃなくて、男から付き纏われて……――あ、そうだ、そういえば。
「お前のこと、知ってたんだけど…」
『ん? そりゃ、知ってるでしょ。あんたは知らない奴に付き纏うと思うわけ?』
「いや、そうじゃなくて。お前の性別が、男だって…」
『……あぁ、だって、まぁ、有名なことだし…』
何故か突然歯切れが悪くなる小竹。それに違和感を覚えながら、再び質問する。
「じゃあ、あの人ってそっちの人…なのか? 恋愛対象が男、みたいな…」
『……え? あ、そう、そうなる…ね』
何だか様子がおかしい。大丈夫かと訊ねようとした時、予鈴が鳴った。
「やばっ、戻らないと!」
『――じゃ、切るよ』
「えっ? あ、てかお前学校は………切れた」
俺は一度眉を顰めて、慌てて教室へ戻った。
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