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 俺は、小竹の話をあんまり信じちゃいなかった。比率で言えば、八対二くらい信じてなかった。見せつけるようにして下校したとして、小竹が男であるということは有名のようだし、これで何か成果が出るとは思えなかったのだ。
 今は、それを全力で撤回したい。

「お前、あいつの何?」

 目の前にある顔が、俺に影を作りながら問うた。世の女性が憧れる壁ドンというものを、現在進行形で経験している。が、しかし、女性は本当にこれをされて嬉しいものなのかと俺は問いただしたい。
 いや、今はそれどころではない。俺は怖々と男を見上げ、口を開く。

「あ、あのぉ、あいつ、とは…」
「あ? 小竹優に決まってんだろ」

 ドスの利いた声で言われ、ひっと引き攣った情けない声が口から出てくる。――そう、俺は、呼び出され、尋問されていた。肩につくかつかない長さの人工的な金髪と短眉、鋭い目の不良に。そしてそれは恐らく、というかほぼ確実に小竹に付き纏っているであろう人物に。
 あいつの話、本当だったのか。ていうか絶対黙ってたのわざとだろ、あいつ。

「おい、答えろよ」

 ……彼氏って答えなきゃダメ、なんだよな、これ。でもそんなこと言ったらボコボコにされそう。いや、待て。もしかしてこの不良は、あいつのことを男だと知らないんじゃ…? 有名なことらしいが、俺も知らなかったし、こいつは不良だ。学校に来ることも少ないのでは…?

「つかぬことをお訊きしますが…小竹優の性別はご存じで…?」
「は? 知ってるに決まってんだろ」
「あんな格好してますが、男なんですよ!」
「だからなんだっつーの。で、お前は何なんだよ、あいつの」

 ……知ってるんかーい!ということは。こいつ、ガチな奴だ…。
 ちょっと引いていると、不良が早く答えろと苛立たしそうに言った。くそう。もう、こうなりゃ仕方ない。俺はぎゅっと目を瞑って、叫ぶように言った。

「つ、付き合ってる!」


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