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「俺に何か用?」
「用があるから話しかけてるんだけど」

 室伏にちらりと視線を遣った後、内緒話をするように、口元に手を当てて話し出す。

「あの、あいつが酷いことしまくってるってほんと?」
「ああ、ほんとだよ」
「でも、村谷くんには別人のように優しいって」
「それもほんと」
「ほんとなんだ…」

 目を見開いて驚く平野さん。無言で頷いてみせると、眉を顰められた。

「ま、いじめられてないならいいや。でも噂になってるよ村谷くんたち」
「噂って、なんの?」

 分かっていながら、俺は訊ねる。平野さんは言いにくそうに視線を漂わせた。

「その、……付き合ってるって」
「へえ、そうなんだ」

 くすりと笑うと、訝しげな表情に変わる。俺は平野さんの手から本を奪い返した。

「もう教室に戻った方が良いんじゃない」

 時間を確認した平野さんは、何が言いたげな顔をして、去っていった。

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