35

 何か言いたげな顔をされたが、前の席の奴は肩を竦めて前を向いた。ほどなくして先生が教室に入って来て、授業が始まった。俺は教科書を開きながら、先生の言葉を右から左へ流す。今始まったばかりだというのに、早く授業が終わらないかと溜息を吐く俺。
 ちらりと室伏を見ると、ばちっと目が合った。室伏はにやっと笑うと、すぐに前を向いてしまった。








 授業が終わって室伏を見ると、机に伏していた。まあ次の授業は移動でもないし、起こす必要はないだろう。本でも読もうかと思って引き出しの中に手を突っ込んだ時。

「ねえ、ちょっと」

 近くで声が聞こえた。何となく聞こえたことがある声だが、ま、俺ではないだろう。

「ねえって」

 おい、返事してやれよ。と思う。本を開いて、活字を追った。しかし、すっと本が何者かによって奪われる。犯人の手を負うと、これまたどこかで見たことがある人が俺を睨んでいた。……ええと、確か。

「平竹さん」
「平野だっつーの!」

 何故平野さんが。窓の外、廊下で右手で教科書を抱え、左手で俺の本を持っている平野さん。教室移動の途中なんだろう。

[ prev / next ]



[back]