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 叩かれた部分がじわじわと赤くなっていく。叩かれたのに嬉しそうな顔をしているため、俺と同じように廊下を窺っていた人たちは若干引いている。

「……室伏」

 教室に入って来て、真っ先に俺のもとへやってくる。室伏は俺の前の席に座ってる奴に容赦なくどいてと言って追い払う。前の席の奴は涙目で恐らく友人であろうクラスメイトのもとに飛んで行った。

「はー、よっこいしょ」

 おっさんみたいな声とともに席に腰を下ろすと、俺の机に頬杖を付いた。もう片方の頬が赤くなっていて痛そうだ。じっと見ていると、室伏は不思議そうな顔をした。

「どうしたの、カズ」
「何でいきなり態度を変えたんだ?」

 一瞬表情が固まり、珍しいことに、言いよどむ。

「いや、それは…」
「何でだ?」

 じっと見つめあう俺たち。暫しして、ぽつりと室伏が呟いた。

「だって、今までのままだったらカズに信用されないだろうから…」
「……え、俺に信用されるために?」

 あんぐりと口を開ける。むすっとした室伏は、嘘を吐いているようには見えない。
 室伏がどんどん変わっていく。女子に告白させ、別れた後に自分が付き合うということを繰り返していた室伏はもういない。なんだか少しだけ悲しい。



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