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 それから一ヶ月。なんと俺と室伏はまだ付き合っていた。いや、信じるとは言ったが、やはり心配だったのだ。しかしこの様子だと、これからも……と希望がわいてくる。
 …そして、室伏はというと。

「は? 煩いんだけど」

 嘘を吐くのをやめていた。……正確にはやめてはいないが、今のようにずばすばと言う奴になっている。

「ひ、ひどい……!」

 名も知らぬ女子は目に涙を溜めて室伏を責める。それを面倒くさそうに見下ろす室伏。

「だってあんたに興味ないし」
「なんで、だって前…」
「前? なんかあったっけ」

 ふ、と笑う。しかしそれは笑顔ではなく、嘲笑だった。何故いきなり笑みを浮かべるのも嘘もやめたのか分からないが、こんな調子でいつか刺されないかと心配になる。
 俺は教室から廊下で行われている修羅場めいたものを眺め、溜息を吐く。その時、室伏と目が合った。

「あ」

 ぱっと明るくなる顔。室伏は俺に向かって手を振った。

「カズ、おはよー」

 もう女子は視界に入っていないというように、室伏はこっちしか見ない。と思っていたら、女子が室伏の顔を叩いて走り去っていった。
 

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