28

「カズの席で食べる?」
「どっちでもいいけど」
「じゃあここで」

 室伏はにこりと笑うと、俺の前の席の奴の椅子を引っ張って座った。何の許可もなく我が物顔で座った。前の席の奴は何かもの言いたげに室伏を見ているが、室伏は全くそっちを見ない。気づいてはいるだろうが。
 まあ、別にこれくらいなら咎める必要もないだろう。俺は無言で弁当を取り出した。

「室伏は何買ったの」
「俺はねえ、何か適当に手に取った奴」

 言いながら出すのは、人気で即完売と噂の商品たち。……適当に取ったにしては、色々揃いすぎている。別にここで嘘吐く必要ないだろと思いながら、へえと声に出す。

「カズ、なんか要る?」
「いや、いい」
「一口だけでも」
「いい」

 今日は調理パンの気分ではない。米が食べたいんだ。首を横に振ると、室伏は残念そうに呟いた。

「えー。あーんってやりたかったのにな」

 ぎょっとして室伏の口を塞ぐ。何を言い出すんだ、こんなところで。周りの様子を窺おうとした時、手ににゅるりと何かが這って、一気に鳥肌が立った。

「なっなっ」

 ぱっと手を離す。手の平が湿っていた。ぎろりと室伏を睨むと、室伏は声を上げて笑った。

[ prev / next ]



[back]