23

 俺は何しに室伏の家に行ったのだろう。深い溜息を吐きながら一人、家に帰る俺。室伏が送ろうかと言ってきたが、まだ外が暗くない上に俺は男だ。送ってもらう意味が分からない。それに、今は一人になりたかった。
 空を見上げる。茜色に染まっている空に向かって、もう一度溜息を吐いた。








 それから数日。あれから室伏も俺も、いつも通りに過ごしていた。あまりにも変わらなすぎて、あの日のことは夢だったんではないだろうかと疑う始末。

「ねえ」
「……何?」

 知らない――いや、どこかで見たことがあるような女子が俺の机までやってきた。首を傾げると、女子は不可解そうに眉を潜めた。

「…何って、それだけ?」
「他に何を言えば」
「……もしかして、私のこと忘れてんじゃないでしょうね」

 女子の目がつり上がって、俺を睨む。こんなことを言うということは、クラスメイト或いは俺と付き合ったことがある人だ。……ああ、分かった。俺に告白してきた最後の人で、室伏に唯一断られた人だ。

「平岡さん」
「……誰が平岡よ」

 どうやら違ったらしい。素直にごめんと謝ると、平野だと教えてくれた。

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