▼ 23
俺は何しに室伏の家に行ったのだろう。深い溜息を吐きながら一人、家に帰る俺。室伏が送ろうかと言ってきたが、まだ外が暗くない上に俺は男だ。送ってもらう意味が分からない。それに、今は一人になりたかった。
空を見上げる。茜色に染まっている空に向かって、もう一度溜息を吐いた。
それから数日。あれから室伏も俺も、いつも通りに過ごしていた。あまりにも変わらなすぎて、あの日のことは夢だったんではないだろうかと疑う始末。
「ねえ」
「……何?」
知らない――いや、どこかで見たことがあるような女子が俺の机までやってきた。首を傾げると、女子は不可解そうに眉を潜めた。
「…何って、それだけ?」
「他に何を言えば」
「……もしかして、私のこと忘れてんじゃないでしょうね」
女子の目がつり上がって、俺を睨む。こんなことを言うということは、クラスメイト或いは俺と付き合ったことがある人だ。……ああ、分かった。俺に告白してきた最後の人で、室伏に唯一断られた人だ。
「平岡さん」
「……誰が平岡よ」
どうやら違ったらしい。素直にごめんと謝ると、平野だと教えてくれた。
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