20

 じっと俺を見つめてくる室伏。息が詰まりそうな空気だった。俺は静かに息を吐いて、室伏を見つめ返す。

「別れて欲しい」
「へえ、何で?」
「何でって、…分かるだろ、理由なんて」

 ぴくりと眉を一瞬だけ動かした室伏だったが、表情は変わらない。空気は重たいのに、室伏は相変わらずにこやかに笑ったままだった。

「分からないんだけど?」
「――もう、嫌なんだよ。お前に振り回されるのは」
「俺、何か振り回したっけ」

 楽しげな声。その瞬間俺の中で何かが切れる音がして、気がつけば、声を荒げていた。

「この訳の分からない恋人ごっこも、俺が告白されては断られるのも、そのほかにも色々あるだろ!」
「訳の分からない恋人ごっこて酷いなあ。それに、カズが良く告白されて良くフラれるのは俺関係ないはずだけど」

 どの口が言うのか。俺はじろりと室伏を睨んだ。

「カズが告白されるのはモテるからであって、フラれるのは単に合わなかっただけ。だろ?」
「告白されるようになったのはお前と友達になってから。俺のことフった人はお前と付き合っただろ」

 そこで漸く、室伏は黙る。そして人好きのする笑みから、少し馬鹿にしたような顔になった。

「友達か」
「……違うって言うのか」
「俺、カズのこと友達だと思ったことはないな」

 ぐさりと突き刺さる室伏の言葉。何も言えなくなっていると、室伏はにっと笑った。

「なんて、嘘」


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