19

 室伏の部屋はシンプルだった。綺麗に片付けられている――というか、そもそも、物が少ないように見える。でもこの部屋だけ浮いて見えるのは、今までの空間がお洒落だったからだろう。

「そこのクッションとかベッドに座っといて」
「えっ」

 そう言うなり、室伏は部屋から出て行ってしまう。…もしかして、お茶とか持ってくるつもりなんだろうか。困った。長居するつもりはないのに。
 流石にベッドに座る勇気はなくて、俺は折り畳みのテーブルの近くにあったクッションに腰を下ろす。

「静かだ…」

 俺の声が静かに響いて消えていく。ひんやりとして空っぽな部屋。まるで室伏のようだと思った。
 ぼおっとしていると、突然がチャッと音がする。俺は少しだけびくりとして、ドアの方を見た。お盆を持った室伏が肩でドアを押えている。立ち上がってドアを押えようと思ったが、室伏は足でドアを蹴って、その隙にすっとこっちへやってきた。

「お待たせ」
「…良かったのに」
「飲みたくないなら飲まなくていいよ」

 意地悪く笑う室伏。そう言われたら、飲むしかないじゃないか。俺はむすっとしてコップを受け取った。
 室伏もコップを手に取り、一口飲む。そしてちらりと俺に目を遣った。

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