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「はい、どうぞ」
気が付けば室伏の家に着いていた。途中なんの話をしていたか、思い出せない。何も話していなかったような気もする。
俺は室伏の家を見上げる。どこにでもありそうな普通の一軒家。俺はマンション住みなので、こういう家に憧れている。
「…お邪魔します」
玄関で小さく頭を下げ、靴を脱ぐ。ぐるりと一周見回して、へえと声を出した。外観は普通だったが、中は意外にお洒落で凝っている。
「カズ、こっち」
室伏は階段のところで手を招く。俺は室伏の後を追って階段を上がる。静かな家の中にトントントンという音だけが響く。
本当に家族がいないんだな、と思って心臓がばくばくと鳴り始める。
階段を上がりきると、室伏は足を止めた。そして一つのドアを開いた。
「さ、入って」
「……ああ」
「もしかしてカズ、緊張してる?」
室伏は愉快そうに笑った。俺は平静を装って、首を横に振った。それでも笑みを崩さない室伏は、俺が今ドキドキしていることに気付いているのだろう。
室内へ促され、俺は恐る恐る足を踏み入れた。
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