17

 キスをしても嫌だと感じなかった俺がいる。まず最初に気になったのは周囲の目だった。俺は顔を覆って息を吐く。完全に失敗した。俺が行為を見せれば離れて行くだろうと思っていたあの時の俺を殴りたい。
 しかし、まだ後戻りができる。今ならまだ、この気持ちを消すことができる。

「カズ」

 ふっと思考から戻される。目の前に室伏が立って俺に影を作っていた。俺が遅いので、戻ってきたらしい。

「――室伏、話がある」
「話? 何」
「ここじゃちょっと…。どっか、二人で話せる場所に行きたい」
「二人で? 積極的だな」

 違う、そういう意味じゃない。俺は呆れ顔で室伏を見上げる。そんな俺に対し、室伏は肩を竦めた。そして少し考えた後、にこりと笑う。

「じゃ、俺の部屋」
「む、室伏の…」
「親は夜まで帰ってこないから邪魔が入らないし」

 いいだろ、と無言の圧力をかけてくる。二人でと言った手前、断ることもできないし理由も見つからず、俺は無言で頷いた。
 室伏の部屋に――というか、家に行くのは初めてだ。まだ行ってもいないというのに、俺は緊張して落ち着かなかった。

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