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「カズ、こっち向いて」
室伏の言葉を無視して顔を合わせないまま歩き続ける。すると、ぐいっと腕を引っ張られた。
「な――」
何するんだ、と言おうとしたが、俺の言葉は最後まで発せられることはなかった。俺の唇に何かが触れている。頭が真っ白になり、目を見開いて俺は硬直した。
――今、何が起きたんだ。
「カズ? 変な顔してどうした?」
「ど――うした、って! お前、今」
俺は口を押さえてわなわなと震える。今、今、こいつ、キスしやがった!
はっとして周りを確認する。こっちを見ている人は運良くいなかった。ほっとした後、室伏わや睨む。
「何を考えてるんだ」
「だって、恋人ならこれくらいするじゃん」
恋人、なら。その言葉にどきりとする。しかしすぐに我に返って、ごしごしと口を拭った。そんな俺を面白そうに眺め、何事もなかったかのように足を動かし始める室伏。俺はその背中を睨むだけで、その場から動けなかった。
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