13

「カズ何にする?」

 室伏が壁に書かれているメニューを見上げながら訊ねてくる。俺はカレーとだけ答えて、ちらりと室伏を見る。

「何であんなこと言った?」
「あんなことって?」
「……付き合ってる奴いるってこと」
「んー」

 メニューをじっと見ていた室伏が俺の言葉を聞き流しながら小さく呟く。「味噌ラーメンにしよ」
 そして、俺に向き直ると、口角を上げた。

「だって、いないなんて言ってあいつらに囲まれてたら嫉妬しちゃうでしょ」
「嫉妬? ……誰が?」

 まさか、俺のことじゃあるまいなと思いながら聞き返す。室伏はさらりと言った。

「勿論、カズだけど。俺の恋人の」
「ちょ、声でかい!」

 慌てて周囲を確認すると、運良く誰もこっちを気にしていなかった。ほっと息を吐いて室伏を睨む。――どうやら、室伏は気にしないようだ。付き合っているのが俺だってバレようと。……まあ、その時詰られるのは間違いなく俺だ。室伏的にはどうでもいいんだろうな。

「カズは恥ずかしがりやだな」

 思ってもないことを言いながら、室伏は笑った。

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