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 昼休みになると、女子がこぞって室伏に集まる。どうやら、室伏が平野さんを振ったことが広まっているようだ。つまり室伏はフリーだと思われているということだ。

「ねえねえ、お昼一緒に食べようよ」

 睫毛をばさばさと動かしながら猫なで声で室伏に話しかける。名前は何だったか、あまり覚えていない。

「ごめん、無理だな」

 俺は手を止める。女子が不満の声を上げた。

「ええ、なんで? だって、今誰とも付き合ってないでしょ?」
「付き合ってるよ」

 さらっと答えられ、女子は皆黙る。そこだけ空気が悪くて、俺は思わず笑ってしまった。……って、笑っている場合ではない。何を言っているんだ、室伏は。まさか……俺の名前を出すなんてこと、流石に室伏もしないよな?

「……えっ、もしかして平野さんと?」

 どきどきしているであろう女子。俺も勿論どきどきしていた。

「秘密」

 室伏はにっと爽やかに笑う。その瞬間、俺は息を吐いた。気づかぬうちに息を止めていたようだ。どきどきしていたのはこれのせいでもあるだろう。

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