10

 ――何を考えているのだろうか。俺は無言で室伏を見つめる。

「……いいよ、別に」

 室伏は何も言わない。無言で俺と見つめ合うが、ふっと笑みを浮かべた。

「じゃあ、これからも宜しく」

 手を差し出してきたので、俺はすぐさま握り返した。ぎゅっと力が入れられ、眉を顰める。何を思って室伏がこんなことを言いだしたのかは分からないが、これは嘘だ。まず、俺は男だし。確かに本命の彼女が居た気配はないが、俺が好きだということはあり得ないと思う。仮に、同性愛者だとしてもだ。

「…宜しく」

 口角を上げる。俺は思った。ここで俺と付き合うということは、俺が漸くこの嘘吐き男から解放される可能性が高い。俺がこの男を好きだと言えば、室伏は俺から離れるしかない。
 手がぱっと放される。室伏は相変わらずの笑みを浮かべながら、親指で背後を指差した。

「じゃ、教室帰ろう」
「ああ」

 俺に背を向けると、さっさと歩き出す。俺はふうと溜息を吐いて、それに続いた。












 教室に戻ると、室伏は何も言わず自分の席に向かった。俺は室伏の席に行くつもりはないしそうしろとも言われてないので俺も自分の席に直行した。
 さて、室伏と付き合うことになったわけだが。この場合、告白されたらどうすればいいんだろうか。普通に考えたら断るんだけど、そうなると俺は女子に恨まれるというか、平野さん以上に面倒なことになりかねない。 
 ……まあ、告白された時はされた時だ。俺は考えるのをやめて、机に突っ伏した。

[ prev / next ]



[back]