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「ほら、村谷くんってかっこいいし…」

 困った末に、見え透いた嘘を吐く平野さん。室伏はふうんと笑った。

「俺はカズをかっこいいと思ったことはないな」
「あ、え、そう」

 自分だって思ってないが、さっき言ってしまった手前、正直に言えないといったところだろう。

「あの――」
「どっちかと言うとカズはかわいいよね」
「……かわいい?」

 流石にそれは口を挟まずにはいられなかった。かわいいって、なんだっけと思いたくなる言葉だ。嘘だとは分かりきっているが、なんだろう、この胸騒ぎは。

「かわいいけど、カズは」
「どこらへんが?」
「全部」

 にこりと笑う。嘘くさい笑み。そこでやはり嘘だたったのだと確信して、ほっと息を吐く。さっきの胸騒ぎはきっと気のせいだ。

「じゃあ、俺の家こっちだから」

 そう言うと、室伏は俺たちの返事を待たず去っていく。平野さんがぽつりと呟いた。

「家、あっちなんだ…」

 俺知っていた。室伏の家はとっくの昔に過ぎていたことを。そして俺は、まったく家の方向と別の場所に向かう室伏の背中を見送った。

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