3

 俺は後ろを振り返る。誰もいないし、気配も感じない。

「どうしたの? 村谷くん」
「いや…別に」

 俺は女子に視線を戻す。そういえば、名前はなんだろうか。同じクラスではないが、恐らく同じ学年だろう。

「名前は?」
「私の? ああ、言ってなかったわね。私は平野。まあ好きに呼んで」

 苗字しか名乗らないのか、と思いながら、しかし俺は口に出さなかった。どうせすぐに別れることになる。苗字だけで十分だ。とりあえず平野さんと呼ぼう。

「俺は平野ね。まあ、宜しく」

 短い間だけど、と心の中で付け加えた。










 平野さんと別れ教室に戻ってくると、室伏が自分の席に座っていた。ばちりと視線が合う。

「よ。何だった?」

 室伏は白々しく笑う。俺はそれに気づかないふりをして、告白だったと告げた。

「へえ、凄いな。早速じゃん」

 俺は室伏をじっと見つめる。目は笑っていない。むしろ、ぎらぎらとしていて俺を睨んでいる。そのことに、室伏は気づいているのだろうか。

「次は、どれくらい続くかな」
「どれくらい続いてほしい?」
「そりゃあ、長く続いてほしいと思うよ」

 室伏はさらりと俺の質問に答える。俺はありがとうと礼を言う。室伏は笑った。相変わらず嘘くさい笑みだった。

[ prev / next ]



[back]