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 俺のことを話すことにする。と言っても、そこまで話すことはない。平々凡々という言葉がお似合いだからである。中学三年の時に一度彼女はできたが、特に何かあるというわけでもなく、自然消滅してしまった。高校に
 室伏に会うまで、俺は本当に凡人だった。最初は戸惑っていたが、何回も経験するうちに慣れてしまった。慣れって怖い。

「村谷くん」

 俺は本から顔を上げる。化粧をばっちり施した女子がにこりと笑う。
 ちなみに村谷とは俺のことだ。

「なに?」
「話があるんだけど、いいかな?」

 わざとらしく首を傾げて笑う名も知らぬ女子。俺はパタンと本を閉じて立ち上がる。視界の端で室伏が顔を上げた。俺はそれを一瞥だけして、女子と一緒に教室を出る。少し遅れて聞こえる足音。足音の正体は振り返らずとも分かっている。
 ――室伏だ。女子も気づいているだろう。しかし俺たちは気づいていないふりをしながら、そのまま歩いている。女子が止まったのは、非常階段だった。

「村谷くん。私、あなたのことが好きなの。付き合って」
「いいよ」

 女子は棒読みで告白する。俺は愛想笑いを浮かべる。この様子を窺っている室伏は笑みを深めた。
 異様な雰囲気だった。しかし俺はそれにも慣れてしまったのでなんとも思わないのである。
 

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