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「あっ、照れてる」

 村瀬が目敏く気付いたので、俺はむっと口を歪めた。

「? 何で照れてんだ」

 そして不思議そうにする綾斗。…まあ、分からないなら分からないでいい。

「そんで? キスするならさっさとしてくれる? 俺仕事溜まってんだよね」
「……さ、さっさとしてくれる? って……お前は関係ないだろ!」
「記念すべき初チューを見ときたいなって。いいじゃん、別に減るもんじゃないでしょ」
「減るわ!」

 何言ってんだこいつは! 殴りたい衝動に任せて腕を上げると、その腕は誰かに掴まれた。え、と思っていると今度は引っ張られ、気がつくと目の前に綾斗の顔があった。

「ま――」

 俺の制止の声は綾斗の口によって遮られた。一瞬のことだか、数秒のことだか分からないが、再び気がつくと綾斗の顔は少し離れたところにあって、俺は何度か目を瞬かせた。

「ごちそーさん」
「ごっごちそうさんじゃない!」

 俺は力一杯、綾斗の頭に拳を落とした。






「……ど、どうしたんですか…?」

 生徒会室を飛び出し、廊下を歩いているところで戸部に遭遇した。戸部は俺の顔を見ると、目を丸くして恐る恐る訊ねてきた。

「いや、ちょっと…」
「ちょっとって顔じゃありませんけど…。あ、そういえば、山田のことですが」

 山田――あ、そういえば。

「戸部…」
「はい?」
「俺に何か隠しているだろ?」
「え?」

 戸部が目を見開く。綾斗は言っていた。戸部も、綾斗の気持ちを知っていたと。

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