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 流石に同情した。綾斗に利用されただけではなく、あの反省室に入れられるなんて…。

「これで大人しくなって、俺はお前と堂々と付き合うことができる。最高だな」

 綾斗は反省も悪気もまったく見られない顔で笑うと、俺の肩に腕を回した。俺はすぐさまそれを払い落とす。

「おい、何すんだ!」
「俺はもう帰る」
「えっ、帰っちゃうの?」

 村瀬が目を丸くする。俺は頷いた。

「は? 何で帰るんだ」

 不機嫌そうに顔を歪める綾斗をじろりと睨むと、綾斗が少しだけ顔を強張らせた。

「だから俺がここにいちゃいけないだろ。山田にも言ったことだし、俺が守らなくてどうするんだ」
「……分かったよ」

 あれ。意外とあっさり帰してくれるのか。なんか、それはそれでちょっと……って、いやいや。何を変なことを思っているんだ、俺は。

「じゃあ…」
「そのかわり」
「そのかわり…?」

 綾斗はじっと俺を見つめてくる。その真剣な表情にどきりとしながら、言葉を待った。

「キス」
「は?」
「キスしろ」
「……はあ?」

 な、何を言っているんだ、こいつは。日野が驚いてお茶を噴き出すのが視界に入った。キスって。…ま、まさか。ここでしろと? 俺を帰らせてくれるかわりに、キスをしろって?

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