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「で、だ」

 綾斗は急ににやりと笑うと、俺に顔を近づけてきた。思わずびくりとしてしまう。

「な、なんだ…?」
「なんだ? じゃねえよ。俺はお前が好きだっつってんの。お前は?」
「お、俺……?」

 ぱちぱちと目を瞬かせる。ばくばくと心臓が鳴って、俺は落ち着きなく視線を漂わせた。そして、ぎゅっと握り締められた綾斗の拳が目に入る。その瞬間、心臓が落ち着きを取り戻す。
 綾斗は人に弱味を見せたがらない。いつだって堂々としている綾斗だって人並みに緊張する。そしてそれは手に表れるのだ。
 俺は、その時初めて愛しいという感情を手に入れた。

「……す」
「綾斗は僕が好きなんだ! そうでしょ!?」

 うっ。出鼻をくじかれた。俺は口を引き攣らせた。綾斗も頬をぴくぴくさせ、発言者――山田をぎろりと睨む。

「まだいたのかよ。おい、そいつどっかに放り込んどけ」
「あいあいさー」

 放り込んどけって、人を物みたいに扱って……。しかし俺も山田にはここから離れてほしかったので黙っていた。

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