18

「日向が僕をこんなところに連れ込んでっ…!」
「なに?」

 綾斗の目が俺に向けられる。その腕の中で、山田が口角を上げた。

「そうなのか? 日向」
「ち…」

 声が震える。責めるような目から逃げたくなったが、足が動かない。

「ちがう! 綾斗、信じてくれ! 俺はっ――」

 感情に任せて叫ぶと、目からぽろっと涙が出てきた。綾斗の目が見開かれる。俺自身も驚いて目の下を押さえる。

「おっ、お前、泣くなよ! ごめん、俺が悪かった!」
「え?」
「え?」

 山田を突き飛ばし、慌ててこっちへ向かってくる綾斗。突き飛ばされた山田も、何故か先程の山田のように綾斗の腕の中にいる俺も、状況がわからず目を点にする。

「ちょ、ちょっとお、綾斗!? 僕が襲われたんだよ!?」
「うぜえ、喋んなクソ」
「なっ…」

 ……え、ええと? これは一体、どういう状況なんだ?

「あ、綾斗?」
「怖かったんだろ? もう大丈夫だからな」
「い、いや…怖いっていうか…」

 さっき涙が出たのは、綾斗に軽蔑された目で見られるのが嫌だっただけで…。

『アンタって綾斗のこと好きなの?』

 山田の声が脳内に再生される。その瞬間どきっと心臓が跳ねて、体が熱くなった。

「ど、どうして…」
「哀れだねえ。会長がお前みたいなの、好きになるわけないじゃん」
「…はあ、漸く、解放されるんだね」

 聞き覚えのある声にハッとして俺は綾斗の胸を押して離れる。会計の村瀬と副会長の日野が呆れた顔で立っていた。不良の姿はない。――逃げたのか?
 いや、それよりも。今何て言った?

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