10

 日野は俺の視線から避けるように顔を背ける。俺も日野から視線を外した時、今度は山田と目が合った。山田がにこりと笑ってこっちにやってくると、綾斗と村瀬もそれに続く。
 俺はそれを見ながら、どうやって注意すべきか思考を巡らせた。

「日向はどうしてここに?」
「俺は少し用事があって。きみこそどうしてここに?」

 十中八九、綾斗もしくは他の役員に呼ばれたんだろうけど。倉智が連れてきたしな。まあ、倉智が進んで呼んだというより綾斗か村瀬辺りだな。日野は性格的にそういうことをするようには思えない。

「僕は綾斗に呼ばれたよ!」
「ああ……」

 やっぱり。俺が呆れて声を出すと、綾斗が何だその反応はと俺を睨んでくる。俺はそれを無視して、山田に話しかけた。

「あの、俺が言うのもなんだけど、ここは色々重要なものがあるからあんまり入らないで欲しいんだ。帰ってくれないか?」
「だって、僕は呼ばれて…」
「うん。呼ばれても断ってほしい。きみが帰って俺がここにいるのが納得いかないなら、俺も帰るから」

 仕方ない。もう綾斗の部屋に行くなりなんなりして、その時言おう。俺も綾斗の幼馴染や親衛隊隊長やってるからって生徒会室は滅多に来ないし、山田にここにいて欲しくないのも本当だ。だから今日は山田を帰すことを優先しよう。
 しかし――。

「おい、待てよ」

 綾斗が不機嫌そうに口を挟んできた。まあ、文句を言ってくるだろうとは思っていたけど。

「何、綾斗」
「凛は俺が呼んだんだからいいんだよ。お前は――…お前が、帰れ」
「……え?」

 一瞬、何を言われたか分からなかった。俺は、俺と山田両方残る、もしくは帰るように言うのだと確信していた。
 帰れと、俺一人が帰れと言われたのか。

「……分かったよ」

 思いのほか低い声が出た。俺は平静を装うと、立ち上がる。ドアの方へ向かって足を進めた。

「……ふ」

 山田とすれ違う瞬間、山田がほくそ笑んだような気がした。

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