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 生徒会室に着くと、ノックをした。返事を待ち、重々しいドアを開く。

「あ、志賀野くん」
「どうも」

 室内にいる役員たちがこっちを見る。一番に反応したのは副会長の日野だった。にこりと微笑むと、ソファを指して俺に座るように促した。礼を述べて言われた通り座る。

「なに? 志賀野、会長に用事?」

 傍に寄ってきたのは会計の村瀬だ。明るい茶髪を揺らしながら首を傾げる。村瀬も年下なのに年上を敬う様子を見せないが、こいつに関してはもう諦めている。何度注意しても直らないからな。

「綾斗に用事というか――」

 生徒会役員皆に、と言おうとした時。背後でドアが勢いよく開く音がした。驚いて振り向くと、今日俺と戸部の頭を痛くさせた犯人が入り口に立っていて、隣には書記の倉智もいた。相変わらず何を考えているのか良く分からない表情を浮かべている。

「あっ! 日向!」

 ……なんで、山田がここに? 俺は、綾斗に放課後生徒会に行くことを伝えていたはずだ。じろりと綾斗を睨むと、奴はにやりと笑った。…確信犯だ。

「凛!」

 ぱっと村瀬の顔が輝く。日野も微笑を浮かべて山田に視線を遣った。そして綾斗は――山田のもとへ向かうと、ぎゅっと抱きしめた。

「ああ! 会長! ずるい!」

 村瀬も綾斗たちに近寄って、綾斗と山田を引き離した。

「もー、綾斗ってば、びっくりした」

 俺は何とも言えない気持ちで綾斗たちを見つめる。何だろうか、自分の幼馴染があまり良く思わない相手を好きになったからだろうか。このモヤモヤとしたものは。
 俺はふと視線を感じて、綾斗たちから視線を外す。日野が少し意外そうな顔で俺を見ていた。

「……何だ?」
「…いや、なんでも」

 ハッとして、日野は笑う。苦笑だった。俺はその笑みの意味が分からず、眉を顰めた。

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