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 最初こそガチガチになっていた眞子と恭一だったが、数分後の彼らはいつものように笑っていた。秀と帯広が会話しているところ見てそう思ったのである。帯広は口は悪いが、年相応の笑みを浮かべて秀に話しかけ、一樹を揶揄うのである。想像していた帯広とは全く違う姿に、いつしか緊張が解れていた。

「帯広くんは、しゅーちゃんと付き合いが長いの?」

 思い切って訊ねてみると、帯広は一瞬目を丸くして恭一を見る。そして少し気まずそうに視線を逸らすと、自分の苗字を口にした。

「え?」

 何のことか分からなくて首を傾げる恭一。帯広は舌打ちした。

「帯広でいい。くん付けとか、きめーから」
「あ、ああ。分かった!」

 恭一は嬉しくなって笑顔を浮かべて力強く頷く。そしてその様子を見ていた秀も嬉しそうにしている。自分の友達が仲良くなるのが嬉しいのだ。

「…お前、名前なんつったっけ」
「小林! 小林恭一!」
「…ふーん」

 興味なさそうに呟いて、今度は眞子に視線を移す。自分にも回答を要求しているのだと思って、動揺しながら言った。

「し、篠原です…」
「そーか」

 恭一の時と同じトーンで告げると、ぐしゃりとパンの袋を潰した。そして立ち上がると、秀の頭をぽんと叩く。

「俺、もう行くわ」
「ああ、分かった。またな」
「ああ」

 最後に一樹に視線を遣ると、鼻で笑ってそのまま教室を出て行った。一樹はひくりと引き攣った顔をする。

「何であいつ俺にはああいう態度なんだよ!」
「そっちがそういう態度だからでしょ…」

 恭一はぼそりと呟いた。 


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