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「あ、あの……おはよう」

 秀に声をかけたのは、登校してきた眞子だった。

「おはよう」
「おはよ」

 眞子は少し強張った顔で座る。空気が重い教室と、周辺にいた生徒が帯広のことを話していたので、状況を理解していた。

「神崎くん、帯広くんと仲が良かったんだね」
「ん? ああ、友達」
「へえ」

 眞子は目を瞬いて、感心したように呟く。昨日の時点で秀と帯広に親交があったのは知っていたが、ちゃんと聞くのは初めてだ。秀の言葉に嘘は見えない。そもそも、秀は嘘を吐くような人間ではない。眞子は、帯広とも普通に付き合う秀が凄いと思った。

「神崎くんは誰とでも仲良くなれるよね」
「そうか?」
「しゅーちゃん、ほんと無自覚なんだから…」

 深い溜息を吐く恭一。無自覚な人間に無自覚だと言っても仕方ない。秀が何が無自覚なのかのいう顔をしている隣で眞子が苦笑している。秀が自覚するのは随分先――いや、そんな日は来ないかもしれない。恭一はそんなことを思った。








「……で」

 昼休み、秀の教室を訪ねた一樹は、ひくりと口を引き攣らせた。秀の隣に、不良が偉そうに座っている。

「うわ、出た」
「うわ、出たじゃねえよ! なんでここにいる!?」
「そりゃ、神崎とメシ食うためだよ。なあ」

 帯広はにやりと笑って秀に視線を向ける。一樹は秀の返事を待たずに近寄った。秀がどういう反応をするのかなんて、想像に難くない。案の定、当然だとばかりに頷いた。

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